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漢字の成り立ち

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 私たちが日常的に用いている漢字。 その中には商(殷)時代の占いに用いる骨や甲羅に刻まれた文字(甲骨文字)、青銅器に表わされた文字(金文)などにルーツをもち、発達してきたものがあります。 今回は、秋季企画展「儀礼の器 商周青銅器」にちなんで、青銅器にまつわる漢字の成り立ちを紹介しましょう。 獣面紋尊 (じゅうめんもん そん) 千石唯司氏所蔵 企画展展示中 この写真の青銅礼器の形から連想する漢字はありませんか? その漢字は 酉 張りのある胴部から頸がのび、大きく開く口、胴部の下に高台が付く器形を象っています。 壺に入る液体に由来して、「 氵 :さんずい」がつき 酒 の字 へと派生します。 本器を含め、酒を容れる壺の総称である 尊 という字は「 酉 」の字の下に「 寸 」の字が付いています。 「寸」の字の部分は人の手を表わしているそうで、「尊」の字は両手で酒壺を持ち、神前に捧げる動作を象っているそうです。青銅礼器に由来して成立した「尊」の字は、今日も「たっとぶ」など敬いや上位のものという意味で用いられます。 ちなみに「尊」の字の酉の上に飛び出す2画の部分は、口から広がる酒の香りを表わしているとも言われています。 企画展「儀礼の器 商周青銅器」は3月12日(日)までです。ぜひご覧下さい。 参考文献 奈良国立博物館編『坂本コレクション 中国古代青銅器』2002年 奈良国立博物館

さかずき

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 商周時代の青銅礼器を展示する企画展「儀礼の器 商周青銅器」の会期もあとわずかとなりました。今回は展示作品の中から 觚 (こ)を紹介します。 獣面紋 觚(じゅうめんもん こ) 千石唯司氏所蔵 企画展にて展示中 「觚」は日常では見ない漢字ですが、訓読では「さかずき」と読み、文字通り酒を飲むための器です。 商(殷)時代後期の觚は、背が高く、細身で口がラッパのように大きく開いています。 商時代の王らが行う儀礼の中で飲酒は重要なものとされ、「容れる器」、「温める器」、「飲む器」など酒に関わる様々な器が発達し、觚もその中の1つでした。 儀礼狩猟紋壺(戦国時代:館蔵品)に描かれた 古代中国の儀礼の中で行われる宴の様子 中央の人物が觚に似た器を手にしています 酒はたっぷりと入りそうに見えますが、実は内部は上げ底。細い胴部分(最初の写真の矢印付近)に底があり、器の下半は脚台部ですので、入る酒の量は多くありません。 上から見た獣面紋觚の内部 器の形はバランスが悪そうで、展示する時に倒れないか心配していましたが、手にするとすしりと重く、意外に安定しています。 細い胴部と大きく開く口。これを傾けると中の酒をこぼしそうで、飲むのに苦労するであろうことが想像できます。当時の儀礼には細かな決まり事があったと言われていますが、觚にどのような酒を入れ、どのように飲んでいたのかわかっていません。儀礼の参列者は決まり事に従って苦労しながらも酒を口にしていたのでしょうか。 觚は後の時代にその形が日本に伝わり、今日の花器に似た形のものを見ることができます。 企画展「儀礼の器 商周青銅器」は3月12日(日)まで。ぜひお越しください。 。

当館所蔵の鏡が舞台「キングダム」のプログラムに!

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2023 年 2 月 5 日から帝国劇場を皮切りに 5 月 11 日まで全国4劇場で上演中の舞台『キングダム』(原作:原泰久(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載) 脚本:藤沢文翁 演出:山田和也 音楽: KOHTA YAMAMOTO )のプログラム( A4 版)の表紙一面に 当館所蔵の古代中国鏡「龍紋透彫鏡」がデザイン されています。   この鏡は 紀元前 4 世紀の戦国時代 のものです。鏡背と鏡面を別々に鋳造して組み合わせた「二重体鏡」という鏡で、龍が胴と尾をつる草のようにくねらせた意匠になっています。   この鏡は、ただいま 当館「古代鏡展示館」(兵庫県加西市)で展示中 です。是非実物をご覧ください。     なお画像は当館ホームページでもご覧いただけます。↓ 龍紋透彫鏡 | 兵庫県立考古博物館加西分館 龍紋透彫鏡の X 線画像   ※白黒反転   舞台「キングダム」のパンフレットと 公演の詳細については、東宝株式会社のホームページからご確認ください。

はじまりの1面

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 すべてのものごとにははじまりがあります。 300面を超える銅鏡からなる千石コレクションのはじまりも1面の銅鏡からでした。 美術品蒐集家である千石唯司氏が最初に入手された銅鏡は、瑞鳥紋八花鏡でした。 瑞鳥紋八花鏡 (図270 唐) 現在展示していません 飛ぶ鳥と花枝を主紋様とし、余白を活かしたすっきりとした鏡です。 ビジネスで渡航された際に香港の古美術店でこれを目にして購入されたそうです。ものづくりに関わる者として、その鋳造技術に関心を持たれたのが購入の動機だったと伺っています。古美術店とはその後も信頼関係を構築していき、さらに目を肥やしてコレクションを充実されました。 それら作品は兵庫県に寄贈・寄託され、多くの方々の目に触れる機会を得て、今日に至っています。 千石唯司氏が令和5年2月18日ご逝去されました。 これまでのご厚意に感謝申し上げますとともに、謹んでご冥福をお祈りいたします。

青銅器の名前

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 秋季企画展「儀礼の器 商周青銅器」の会期もあとわずかになりました。 青銅礼器は、日常では見る機会もなく馴染みが薄いうえに、読み方も判らない難しい漢字の名前ばかりで近寄りがたい感を抱いてしまいます。 私も展示担当として青銅礼器に接してきましたが、準備の最初の段階で難儀したのがこの名前でした。最近でこそパソコンも学習したので原稿の入力作業も楽になりましたが、当初はほぼすべて手書きで入力していました。 素紋斝(すもん か ) 商時代前期 当館蔵 企画展展示中 獣面紋卣(じゅうめんもん ゆう )  卣:酒を容れて持ち運ぶ器 千石唯司氏所蔵 企画展展示中 獣面紋方彝(じゅうめんもん ほうい )  千石唯司氏所蔵 企画展展示中 難しい名称の代表格は「彝」(い)でしょう。青銅礼器の総称を「彝器」(いき)とも呼び、祖先を祀る宗廟に常備された器を意味します。 青銅礼器の多くは、使用されていた商周時代に実際どう呼ばれていたのかわかりません。 今日用いている名称は、戦国時代(紀元前5~3世紀)以降の研究者が古典を読み解き、古典に表われる器の名前と青銅礼器を対照させて当てはめたものです。中にはおかしいと思われるものもあるようですが、多くはそのまま用いられています。 数少ないですが、器に銘文があり、そこに器の名前が記されているものがあります。 方格乳釘紋簋(ほうかくにゅうていもん き )   千石唯司氏所蔵 企画展展示中 この器の内面底部(見込み部分)には銘文があります。 「伯作寶𣪘」の銘 銘文は、 「伯作寶𣪘」の 4文字だけの短文ですが「伯が宝の 𣪘 (き)を作った」という意味で、伯という人物がなんらかの記念に𣪘を作ったということを子孫に知らしめるために記したものと考えられています。 この器は現在「 簋」と呼ばれ、銘に記された器の名前は「𣪘」で、文字は異なります。しかしどちらも同音の「き」です。 この器に関しては、少なくとも西周時代の人々も「き」と呼んでいたことがわかります。 今回の展示では、ケースのガラス越しですが、のぞき込むと銘文を見ることができます。 受付で貸し出している懐中電灯を使用したら、銘文はもう少し見やすくなると思います。 ぜひこの機会にご覧下さい。

商時代の鏡

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 当館では秋季企画展「儀礼の器 商周青銅器」を3月12日まで開催中。商周時代の青銅礼器26点を展示しています。あわせて二里頭文化~商時代(紀元前17~13世紀)の銅鏡3面も関連資料としてご覧いただけます。今回はその中の1面、鋸歯縁鏡を紹介します。 鋸歯縁鏡  図2 商(殷) 鋸歯縁鏡は周縁がノコギリ歯のようになっているのが特徴。鏡背面の中央に小さな鈕(ちゅう)があり、後の時代に続く銅鏡の基本形が見られます。鏡背面は同心円状に区画され、矢羽根状の紋様と十字状の透かし孔が巡ります。 この鏡は透かし孔があり、鏡面が研磨されていません。姿見として用いたとは考えがたく、どのように使用したのか謎です。 商周時代はまだ制作される銅鏡の数が少なく、青銅礼器のように王が行う儀礼の場で用いられることもなかったようです。 ぜひ、この機会に青銅礼器とあわせてご鑑賞ください。