青銅器の名前

 秋季企画展「儀礼の器 商周青銅器」の会期もあとわずかになりました。

青銅礼器は、日常では見る機会もなく馴染みが薄いうえに、読み方も判らない難しい漢字の名前ばかりで近寄りがたい感を抱いてしまいます。

私も展示担当として青銅礼器に接してきましたが、準備の最初の段階で難儀したのがこの名前でした。最近でこそパソコンも学習したので原稿の入力作業も楽になりましたが、当初はほぼすべて手書きで入力していました。

素紋斝(すもん ) 商時代前期
当館蔵
企画展展示中

獣面紋卣(じゅうめんもん ゆう) 
卣:酒を容れて持ち運ぶ器
千石唯司氏所蔵
企画展展示中

獣面紋方彝(じゅうめんもん ほうい) 
千石唯司氏所蔵
企画展展示中
難しい名称の代表格は「彝」(い)でしょう。青銅礼器の総称を「彝器」(いき)とも呼び、祖先を祀る宗廟に常備された器を意味します。


青銅礼器の多くは、使用されていた商周時代に実際どう呼ばれていたのかわかりません。
今日用いている名称は、戦国時代(紀元前5~3世紀)以降の研究者が古典を読み解き、古典に表われる器の名前と青銅礼器を対照させて当てはめたものです。中にはおかしいと思われるものもあるようですが、多くはそのまま用いられています。

数少ないですが、器に銘文があり、そこに器の名前が記されているものがあります。
方格乳釘紋簋(ほうかくにゅうていもん )  
千石唯司氏所蔵
企画展展示中

この器の内面底部(見込み部分)には銘文があります。
「伯作寶𣪘」の銘

銘文は、「伯作寶𣪘」の4文字だけの短文ですが「伯が宝の𣪘(き)を作った」という意味で、伯という人物がなんらかの記念に𣪘を作ったということを子孫に知らしめるために記したものと考えられています。
この器は現在「簋」と呼ばれ、銘に記された器の名前は「𣪘」で、文字は異なります。しかしどちらも同音の「き」です。
この器に関しては、少なくとも西周時代の人々も「き」と呼んでいたことがわかります。

今回の展示では、ケースのガラス越しですが、のぞき込むと銘文を見ることができます。
受付で貸し出している懐中電灯を使用したら、銘文はもう少し見やすくなると思います。
ぜひこの機会にご覧下さい。