青銅礼器とその紋様

 古代鏡展示館では、企画展「儀礼の器 商周青銅器」を開催中(3月12日まで)。商周時代の王らが行う儀式の中で用いられる青銅礼器を展示しています。これら作品は遠い昔の中国のものなので、馴染みにくい印象をお持ちかもしれません。しかし、青銅礼器の形やそこに表わされた紋様は今日まで通じるものがあります。近隣の神社や寺院を巡った際に目にした事例を紹介します。


寺院の本堂前に置かれた香炉
香炉は三足で器形も青銅礼器の(てい)に似ています。胴部にある逆三角形の紋様は、青銅礼器に表わされている、再生の意味をもつとされる蝉紋(ぜんもん)そのものです。
胴部に蝉紋が表わされた鳥紋鼎(商後期)
企画展「儀礼の器」にて展示中
千石唯司氏所蔵品

神社の屋根を覆う瓦
鬼瓦軒桟瓦(のきさんがわら)(軒先を飾る瓦)、
鳥衾(とりぶすま)(棟上に突出する円い瓦)

鬼瓦は大きな角とにらむ目が特徴です。その姿は商時代の青銅礼器の多くに表わされた獣面紋饕餮(とうてつ))にも似ています。鬼瓦の起源は5世紀頃の中国にまで遡りますが、青銅器の獣面紋は西周時代(前10世紀)以降衰退するので、両者は直接関連しません。
鬼瓦も獣面紋も魔除けの役割があるとされ、人間が見えない魔物と対峙するうえで、にらむ目と威嚇する角は必要不可欠なデザインだったのかもしれません。
獣面紋鼎に表わされた獣面紋(商末~西周初期)
企画展「儀礼の器」にて展示中
千石唯司氏所蔵品

軒桟瓦や鳥衾には巴紋(ともえもん)が表わされています。巴紋は日本では平安時代以降、瓦や武具などの装飾として多用されます。
商代の青銅礼器の中には、丸や四角の渦巻き紋様が見られます。これらの紋様は気のエネルギーを表わすとも言われます。丸い渦巻き紋様は円渦紋(えんかもん)と呼ばれ、巴紋に似た紋様ですが、こちらも時代の空白と地理的な隔たりがあるので両者が直接関連するとは考えられません。


獣面紋卣(ゆう)に表わされた円渦紋(商後期)
企画展「儀礼の器」にて展示中
千石唯司氏所蔵品

中国社会に強い影響をもつ儒教は、青銅礼器が隆盛していた西周時代の社会を理想としました。儒教を学ぶうえで、青銅礼器は理想とする時代を象徴するものとして、研究対象として重要視されました。儒教は周辺地域の日本にも伝わり貴族や武士の教養として長く影響を与えました。日本でもそれを学ぶ方法として青銅礼器に似た器を使用する行為があり、さらに想像をたくましくすれば、そこに表わされた紋様を尊重してリバイバルさせる動きがあったのかもしれません。


最後に、青銅礼器の主紋様の隙間を埋めるように施された四角い渦巻き状の紋様。雷文(らいもん)と呼ばれていますが、見覚えありませんか?
獣面紋方彝(ほうい)に表わされた雷紋(商後期)
企画展「儀礼の器」にて展示中
千石唯司氏所蔵品

雷紋は、中華料理店でもお馴染みの紋様。中国の伝統的な縁起の良い紋様として今日でも多用されています。

企画展「儀礼の器 商周青銅器」の会期も1ヶ月余りとなりました。この機会にぜひご鑑賞ください。