二枚重ねの鏡
蟠螭紋透彫鏡(ばんちもん すかしぼり きょう) 【図録23】
S字形の凹線を連続した紋様の内側に2枚の合わせ目がある
中国の戦国時代(紀元前453~紀元前221年)の鏡に、紋様のある背面と顔を映す鏡面(表面)が別々に鋳造された鏡があります。「二重体鏡」、または背面側が透かし彫りにされているため、「透彫二重体鏡」(すかしぼり にじゅうたいきょう)、あるいは単に「透彫鏡」(すかしぼりきょう)などと呼ばれています。
二枚を重ねているのは、明るく光を反射させるのを目的とした平滑な鏡面側と、複雑な紋様を表現することを目的とした背面側を別々に制作する必要があったためと考えられています。
出土数がわずかで、伝世のコレクション中にも散見される程度であることから、まだまだ研究の余地が多い鏡式です。平成10年の時点で約40面とされていましたが、新たに千石コレクションに含まれている14面が加わりました。
中央にある鈕座に5体の龍(螭)がかみついている
「蟠螭紋(ばんちもん)」の「螭」(ち)とは、蛇のような細長い胴体をした龍の一種のことで、頭部に大きな角が付かず、耳と区別できないような小角を付けているものが一般的です。この「螭」が立体的に絡まり合いながら大きくうねる紋様を「蟠螭紋」と呼んでいます。
しばらく見ていると、ウネウネと動き出しそうで、ヘビ嫌いの人には少々きつい紋様かもしれませんが、鏡に期待された呪術性を存分に発揮している逸品といえる作品です。
<参考文献>
兵庫県立考古博物館2017『千石コレクション -鏡鑑編-』
廣川守1998「春秋戦国時代の透彫二重体鏡について」『泉屋博古館紀要』第十四巻 泉屋博古館
泉屋博古館2004『泉屋博古 鏡鑑編』