夫を想う妻の詩が記された鏡

異体字銘帯鏡(清銀鏡)【いたいじ めいたい きょう(せいぎんきょう)】

 (X線画像を白黒反転)

紀元前2世紀の鏡に、漢字が記されています。
ちょっと、今の漢字とは異なりますが、だいたいは理解いただけるかと想います。

内容は、上図の上方にある「秋」の文字から右回りに

「秋風起、心甚悲。時念君、立輩徊。常客居、思不可為游中国、侍来帰。清銀銅華以為鏡乎、炤察衣服 観容貌乎、絲組雑。」 

(秋風が吹き、心はとても悲しい。時々あなたのことを思い、立って徘徊しています。常に旅住まいをしているため、都をゆっくりと歩き回ることもできないと思い、侍して(仕えて)帰って来るでしょう。清らかな銀(実際はスズ)と銅を用いて鏡をつくり、その鏡で衣服をチェックし容貌を観ています。糸と組紐とはまじわっている」

作者は都(「中国」と表現)の長安にいる女性で、遠くに旅立ったまま帰らない夫を案じた詩となっています。
その心は、2,000年以上の時間を経た私たちの心にも響きます。
「糸と組紐とはまじわる」は、中島みゆきさんの「糸」の一節「縦の糸はあなた、横の糸は私」にも通じるように思えました。

前漢のころ(紀元前2世紀)、鏡には文字(銘:めい)が記されるようになりました。特に、銘を並べて一周するものを「銘帯」と呼んできます。
漢字のもつデザイン性を強調し、主紋様とした鏡であるため、「異体字銘帯鏡」と呼んでいます。
特に本鏡で珍しいのは、文字が横方向に並んでいる点です。

鏡に文字が記されるようになったことで、当時の人々の鏡に対する想い、習俗が具体的にわかるようになりました。本鏡の銘からも、女性が衣服を整え、容姿を映すために鏡が使われていたことがわかります。

<参考文献>兵庫県立考古博物館2017『千石コレクション -鏡鑑編-』