チューリップと青銅器

 兵庫県立フラワーセンターでは、4月30日までチューリップまつりが開催中。会期中350種16万球のチューリップをご覧いただけます。


チューリップは色鮮やかな釣り鐘のような花をイメージしますが、その香りも特徴的です。

チューリップの和名は「鬱金香(うこんこう)」。鬱金とは染料や健康飲料として知られているウコンのこと。チューリップの香りがウコンのそれに似ていることに由来しているそうです。

ウコンは強い香りをもち、カレーなどの香辛料としても知られますが、古代中国の酒にも用いられていたようです。

古典によると、商(殷)時代は飲酒を伴う祭祀がさかんに行われ、祭祀にあわせた様々な酒が醸造されたようです。その中に「鬱鬯(うつちょう)」がありました。これは雑穀のクロキビを醸造した酒にウコンの煮汁で香りをつけたカクテル。神を祭祀の場に降臨させるための特別な酒だったようです。ウコンの香りは神とコンタクトする重要な役割をもっていたのでしょう。

そして、祭祀を執り行ううえで様々な青銅の酒器が制作され用いられました。

当時の酒は現存していません。また最近のチューリップは品種改良により香りがマイルドになったそうです。今日、その香りを体感できないのは残念ですが、フラワーセンターに咲くチューリップのほのかな香り、そして当館で展示する青銅の酒器から、当時の神をまつる様子を想像してみてください。

商(殷)時代の祭祀に用いた酒器(当館蔵)
(右・中:酒を温める器、左:飲む器)

参考文献

廣川 守「中国古代の酒」『殷周の青銅器』鑑賞シリーズ10 根津美術館 2009年