幻の色

千石コレクションの銅鏡は、寄贈を受けて以降、考古学的研究とともに鏡の素性などを明らかにするために理化学的調査も行っています。今回はその成果の一端を紹介します。

彩絵人物車馬鏡(前漢 図76)は、鋳造した後、鈕座や内・外区に塗彩している鏡です。外区には、赤、白、青、紫、緑の顔料を用いて貴族が狩猟や宴をする様子など4つの場面が描かれ、漢帝国全盛期の貴族の姿や習俗を見ることができます。

彩絵人物車馬鏡(前漢 図76)

絵に使用された顔料の種類を調べるため、鉱物の成分を明らかにするX線回折と、試料に含まれる元素の種類やその量を明らかにする蛍光X線分析を行いました。
その結果、淡い紫色に塗彩された箇所(上下写真の矢印の箇所)からケイ酸バリウム銅が検出されました。

漢紫が用いられた箇所(上写真の拡大)

ケイ酸バリウム銅は自然界に存在しない、人為的に合成されたもの。漢紫という顔料です。漢紫は秦から漢の時代に壁画や器物の彩色に用いられましたが、その後途絶えてしまう幻の顔料です。

彩絵人物車馬鏡は企画展「美と微」にて展示しています。
開館の際は、今日存在しない幻の古代の色彩をぜひご覧下さい。

参考文献:兵庫県立考古博物館 2017年『千石コレクションー鏡鑑編ー』
     兵庫県立考古博物館 2018年『兵庫県立考古博物館研究紀要』第11号