最古級の銅鏡

千石コレクションの筆頭、図録番号1は緑松石象嵌鋸歯縁鏡。その姿形は他作品とは異なっています。所属時期も唯一無二の存在。

緑松石象嵌鋸歯縁鏡(二里頭(夏) 図1 右はX線写真)
所属時期の「二里頭(にりとう)」とは、河南省洛陽市近郊所在の二里頭遺跡の名を冠した文化の名称。20世紀半ば以降の調査で、宮殿をもち、本格的な青銅生産が始まる、殷の時代より古い文化の存在が明らかになりました。
殷の時代を遡ることから、中国では、前漢の時代に司馬遷(しばせん)が記した『史記』の中で、神話時代に続き、後に殷に滅ぼされる最初の王朝(か)に比定されています。
しかし、夏王朝の記述は『史記』など後世の文献のみ。二里頭文化には文字が認められません。したがって、二里頭文化=夏王朝と断定することが難しいのです。
日本では殷を遡る王朝の存在を認めつつ、それが夏王朝なのか慎重に研究しています。

さて、緑松石象嵌鋸歯縁鏡は数ある展示品の中でほぼ唯一鏡面を展示。鏡面には緑松石(トルコ石)をはめ込み、人のような、矢のような不思議な紋様を表現しています。周縁は歯車や草刈り機の刃みたいと言われる形が特徴。紋様に囲まれた中央の円い部分を研磨し、儀式に用いたと考えられます。
周縁の形は、山東省陶寺(とうじ)遺跡出土の銅環(前2000年頃)と、トルコ石のはめ込みは二里頭遺跡出土の銅円盤(前17世紀)と類似します。そこで、この鏡は前17~16世紀に黄河流域の二里頭文化の下で制作されたものと考えています。
普段は展示しない鏡背面です。中央からやや偏った位置(矢印)に鈕があります。

参考文献:兵庫県立考古博物館 2017年『千石コレクションー鏡鑑編ー』
     兵庫県立考古博物館 2018年『兵庫県立考古博物館研究紀要』第11号