龍のウロコ

古代鏡展示館は県立フラワーセンター内にあるため、様々なお客様が来館されます。一見歴史と縁遠い工学部出身の技術者の方が決まって関心を示すのが唐の時代に制作された龍の鏡。
雲龍紋八花鏡(唐 図285)
企画展「龍 翔る!」にて展示中

お話をうかがうと、鋳造で龍の全身に施されたウロコのような表現を均一に施すことは現代の技術でも難易度が高い、とのこと。ものづくりに関わる者として、約1,300年の中国の鋳造技術に目を奪われるそうです。

ところで、龍のウロコのうち、喉元にある1枚のみ逆向きになっており、それに触れると穏やかだった龍は激怒して触れた者を殺すといわれています。これが目上の人の怒りを買う「逆鱗に触れる」の由来です。
本当にそうなっているのか当館にある銅鏡の中の龍を観察しましたが、残念ながら逆向きのウロコは確認できませんでした。

怒れば恐ろしい龍ですが、それを飼い馴らす者もいたそうです。
漢の時代の銅鏡や墳墓の壁石に描かれた絵(画像石)には龍と向き合う仙人が表現されているものがあります。龍に関わることから、この仙人こそ神話の中で夏の王である舜(しゅん)に仕え龍を養飼した豢龍氏(かんりゅうし)ではないかと考えられています。
        盤龍鏡(後漢 図159)    龍(左)と豢龍氏?(右)
             企画展「龍 翔る!」にて展示中

盤龍鏡をはじめ今回展示してある鏡に表された仙人は、龍の食物である霊芝(れいし)を差し出しているような姿で表現されています。
当館の展示では見られませんが、画像石の中には仙人が龍の喉元に触れているような姿で表現されたものがあるそうです。仙人は龍を激怒させずに手なずける術をもっていたのでしょう。

今回紹介した鏡は全て3月まで展示しています。鏡の中に表現された些細な物語を拡大鏡を用いてお確かめ下さい。
なお、12月17日で一部鏡の展示替えを行います。ぜひ、この機会にご来館下さい。

参考文献
廣川 守「鏡にみる文様」根津美術館学芸部編『中国の古鏡』2011年 根津美術館
設楽博己編『十二支になった動物たちの考古学』2015年 新泉社