儀礼狩猟紋壺の世界
春秋戦国時代(紀元前8~紀元前3世紀)、青銅器は儀礼に用いる特別な器から実用的なシンプルなものに変化していきますが、一方で装飾に工夫をこらした器も出現します。
壺(こ)は水や酒を貯える器で、春秋戦国時代頃に現れます。今回紹介する壺は卵のような形の体部外面に人物や動物の姿がところ狭しと表現されています。なお、写真の反対側の面もご覧いただいている面と同じ絵が表現されています。
壺は紋様帯によって上下4段に区画され、それぞれの区画に狩猟や儀礼の場面が表現されています。
1段目(壺の頸の部分)には女性が桑の木の葉を摘む場面と男性が建物から的をめがけて弓を射る場面が表現されています。これらは生産活動や競技ではなく、神に関わる儀式として行われるものです。
2段目(壺の肩の部分)には2階建ての建物があります。2階では食器を並べるなど宴会の準備、1階では梁(?)から吊した鐘(しょう:青銅製の打楽器)や磬(けい:石製の打楽器)などを演奏する場面が表現されています。また掲載の写真では見えない部分に射包み(いぐるみ)や弋射(よくしゃ)と呼ばれる紐を結びつけた矢を放ち、飛ぶ鳥をからめとる狩猟の場面も表現されています。
3・4段目(壺の胴部)も狩猟の場面ですが、様々な動物と武器をもつ人物が入り乱れ、剣を手に大型動物に果敢に挑む者、動物に追われたり倒された者などが描かれています。
登場する動物を見てみると、実在するシカなどのほか、角のある奇妙な動物がおり、さらに写真では見えない部分に魚も表現されています。この場面は現実の世界ではない、神話的な世界を表現しているのかもしれません。
3段目に表わされた狩猟の場面
これらの紋様は、あらかじめ紋様部分がくぼむように鋳造し、そこに青銅とは異なる色調の銅などの金属をはめ込む象嵌(ぞうがん)の技法が用いられています。これまで知られている春秋戦国時代の絵画資料は少なく、人間の様々な活動が生き生きと表わされた本作品は、当時の儀式の様子を知るうえで貴重な資料といえます。ご来館の際には、ぜひ細部までご鑑賞下さい。