サビの話

梅雨の日が続きます。じめじめした湿度の高さは、文化財の大敵であるカビとサビの発生する原因にもなります。今回は、金属の大敵とされるサビについてのお話です。

千石コレクションの銅鏡は保存状態の良好なものが多いのですが、大部分の鏡に多少なりともサビが認められます。
よく「なぜ展示している鏡のサビをとらないのですか?」とのご質問をいただきます。
銅に発生するサビは、その色合いから緑青(ろくしょう)と呼ばれています。緑青はその色合いがいい味を出している、という見方もありますが、美しく細密な紋様がサビで隠れてしまうと台無しだ、との意見もあります。
蓮花柘榴紋八花鏡(唐 図273)
(9月22日まで展示中)

当館が緑青をそのまま残しているのには理由があります。
まず、緑青は良いサビだからです。
緑青はサビの原因の1つである酸素に触れる金属の表面にのみ発生します。そしてサビの皮膜によって金属内部を腐食から保護する効果があるのです。緑青に覆われた屋外の古い銅像が朽ちてしまわないのはこのためです。

次に、本来なら朽ちて残らない布などの有機物がサビに取り込まれることで、残っていることがあるためです。
貼銀鍍金双獣双鳳紋八稜鏡には、鈕に通した紐が残っています。
貼銀鍍金双獣双鳳紋八稜鏡(唐 図244)
鈕の両側(矢印)に紐が遺存しています。
(現在展示していません)

他にも鏡を覆っていた布などがサビで残された例もあります。サビを取り去ると鏡の表面に残っている有機物の資料も損われてしまいます。緑青は良いサビなので、紐や布など微細な資料が含まれる可能性を考慮してあえて現状のまま残しているのです。

もちろん銅にとって悪いサビもあります。それが見つかると当然取り除くことになりますが、まずは温度・湿度を管理するなど、サビが現状よりも進行しない環境づくりにつとめています。