月面探査と鏡

2019年を迎えて早々、中国の無人探査機が世界で初めて月の裏側へ軟着陸に成功、というニュースが飛び込んできました。
21世紀に入り開始された中国の月面探査は「嫦娥(じょうが)計画」と呼ばれています。
嫦娥とは、月に住む仙女と紹介されていますが、物語では夫が入手した不老長寿の薬を盗んで月まで逃げたものの、罰として蟾蜍(せんじょ:ヒキガエル)にされたと伝えられています。古代の中国では、月を象徴する生き物が蟾蜍でした。
月に関する故事をモチーフにした月宮図鏡(唐)の中で、左手に盤を持ち、駆けている女性が嫦娥だと考えられています。


月宮図鏡(図289)と嫦娥と推定される女性

今回、月の裏側に軟着陸したのは「嫦娥4号」で、そこから降り立った探査車の名は「玉兎(ぎょくと)」。玉兎とは皆様ご存じの月のウサギです。中国では蟾蜍とともに月にいると信じられていました。日本ではウサギは月で餅つきをしているとされていますが、本来は不老長寿の薬を作っているとされます。
月宮図鏡に表された玉兎

月の裏側に着陸した「嫦娥4号」は地球と直接交信できないことから、事前に「鵲橋(じゃくきょう)」という名の通信中継衛星も打ち上げました。以前のブログでも紹介しましたが、鵲(かささぎ)は七夕の夜に天の川に橋を架け牽牛と織女を取り持った鳥。この故事にちなみ、「嫦娥4号」と地球との通信を橋渡しする役割から命名されたのでしょう。

唐の時代に制作された月宮双鵲銜綬龍濤紋八花鏡には、今回の探査機器のルーツがすべて表現されています。
月宮双鵲銜綬龍濤紋八花鏡(図290)
鏡背面に月、鵲、龍の3つの吉祥の図像を集約させたおめでたい鏡です。鈕を挟んだ左右の鳥が鵲、その上の円い月の中に嫦娥が姿を変えた蟾蜍と玉兎が表されています。

地球に最も近く、夜最も明るく輝く天体である月。そして常に姿を変える月に対し人類は古くから関心を注ぎました。国家が威信をかけて最先端技術を投入する月面探査ですが、中国に限らず探査機などの名称は月に関する神話や故事にちなんで命名されています。
鏡にも表された伝説や神話が現代にも息づいていることを感じるニュースでした。

今回紹介した2面の鏡は、企画展「唐王朝の彩り 宮廷の栄華をうつす金銀銅」にて展示中。会期は3月12日(火)までです。ぜひご覧下さい。