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4月, 2018の投稿を表示しています

女と男と鏡② あの世での再会<後漢・隋>

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前回、鏡が結婚の際に用いられたことを示す具体例を紹介しました。 今回は、めでたく夫婦となった、その後の話です。 -1- 589年、中国南朝の陳という国が隋に滅ぼされた時、徐徳言という人が妻に言いました。 「国が亡んだ後、あなたは敵に捕らわれてしまうだろうが、縁あれば再会できよう。 その時のために・・・」 徐徳言はそう言うと、鏡を二つに割り、一つを妻に渡し、残りの一つを自分が持ち、再会して元に戻すことができるよう、誓いをたてました。 (猛棨『本事詩』情感篇より) 結局、この二人は鏡のおかげで無事に再会を果たしました。 こうしたお話から、鏡は男女、夫婦の愛情のシンボルとされていたことがわかります。 今でも夫婦の別れを「破鏡」、そして再会することを、割れた鏡が再び円の形にもどることから「破鏡重円(はきょう ちょうえん・はきょう じょうえん)」といいます。 こうした言葉は、鏡が愛情のシンボルとして特別な役割をもっていることを反映しています。 ー2ー 「破鏡重円」の具体的な様子が、発掘調査で確認されています。 それは洛陽市の焼溝漢墓(しょうこうかんぼ)群38号墓の発掘成果です。 38号墓(後漢代)には3人の人が葬られていましたが、そのうちの2人の傍らに二つに割られた鏡がそれぞれ置かれていました。 洛陽焼溝漢墓群38号墓 (参考文献①より引用、一部改変) あの世での再会を誓ったのかも知れませんが、少々問題なのがその鏡を持っていた2人の関係です。 主室に並んで埋葬されている2人が夫婦(または夫と第1夫人)とすれば、男性が再会を誓ったのは妻(または第1夫人)ではなく、副室に埋葬された方(第2夫人?)になってしまいます。 発掘調査は当時の鏡文化を知る重要な手がかりを私たちに与えてくれますが、時には他人の秘密を暴いてしまう、ちょっと残酷な側面もあるようです。 ー3ー せっかくの誓いの証である「破鏡」も、不義理を犯してしまうと、とんでもない行動にでてしまいます。 むかし、ある夫婦が離ればなれになる際、鏡を2つに割り、その破鏡を夫婦で一つずつ持ち合う「破鏡重円」の誓いをたてました。 ところが、妻が別の男と浮気をしてしまいます。すると、妻の持つ破鏡が鵲(カササギ)という鳥になって夫の前に飛んでいき、なんと、

チューリップと団華紋鏡②

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チューリップとトルコとの関わりを調べていると、 チューリップ柄の、おしゃれなトルコ製鍋敷き(タイル)が売られているのに気づき、 思わず買ってしまいました。 「Artnicea社製トルコタイル花型鍋敷き」 ホームページの説明では、 「 ホワイトをベースにチューリップやカーネーションが沢山描かれ、紅白カラーが素敵なデザイン。トルコではチューリップは神聖な花として、カーネーションは天国を意味する花として特別な意味があります。そのためトルコタイルにも多く描かれ、トルコの人々に愛されています。  」 ということだそうです。 また、鍋敷きの裏に貼られているクッション材の説明によると、 「16世紀の伝統的なイズニク・トルコ陶芸品」で、 「無鉛の釉薬」がかけられているそうです。 イズニク陶器、イズニクタイルという名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。 全体の輪郭も、唐鏡の八稜鏡と一緒! 思わず、うれしくなってしまいました。 八稜形の鏡 (騎馬狩猟紋八稜鏡 図録268) イズニク陶器には、皿にも八稜形のものもあるようです。 どうやら16世紀に中国のデザインの影響を受けていたそうです。

女と男と鏡① 結婚で用いられた鏡<後漢・唐>

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古代の中国では、結婚に鏡が用いられることがありました。 ①夫婦が仲良くなる鏡 ピョンヤン市 貞柏里13号墓 出土「尚方作」獣帯鏡<後漢(25~220年)> (参考文献①より引用) この鏡には、以下の銘文が記されています。 「(前略)  嫁入門時 殊大良。  夫婦相重、甚於威央。 (後略)」 (嫁、門に入る時、殊に大いに良(よろ)し。 夫婦は相い重んじ、威央(=鴛鴦:おしどり)より甚だし) この鏡をもって嫁入りすると、とっても良く、夫婦は仲良く、 その様は夫婦仲のよい「おしどり」を上回るほどだそうです。 こんな鏡を1枚欲しいと思うときがありますが、 皆さんはいかがでしょうか?(笑) ②両家が結ばれ、子孫繁栄の鏡 <江西省 南昌丁(なんしょうてい)1号墓出土 獣帯鏡<後漢(25~220年)> この鏡には、以下の銘文が記されています。 「良月吉日、造此倚物。  二姓合好、堅如膠漆。  女貞男聖、子孫充實。 (後略)」 (良き月の吉日に、この奇物を造る。  二姓は好しみを合わせ、堅きこと膠(にかわ)や漆(うるし)のごとし。  女は貞、男は聖、子孫は充実せん。) 吉日に造った、このめずらしく、不思議な鏡は 接着剤のように堅く両家を結びつける。 女性は堅く誠実で、 男性は知徳にすぐれ、賢く、 子孫は繁栄するだろう。 少子化対策にぴったりの鏡です。 ③鏡が登場する唐の詩 王建が詠った詩「老婦嘆鏡」<唐(~830)> 「嫁時明鏡老猶在。  黄金鏤画双鳳背。 (後略) 」 「黄金鏤画」は金銀平脱技法の鏡(下写真参考)、 「双鳳背」は2匹が一組となった鳳が背面に表された鏡のこと。 こうした、双鳳鏡が嫁入り道具として用いられたことがわかります。 <参考> 千石コレクション 金銀平脱 鳳凰紋鏡(図録293) (金銀の板を紋様の形に切り抜き、鏡背面に漆で埋め込んでいる) 同上の鳳凰紋 千石コレクション 双鳳瑞花紋八花鏡(立体画像 図録272) 鳳凰が向かい合う双鳳(同上) ちなみに、我が家の結婚では、嫁入り道具を入れるとき、 鏡(鏡台)を一番に入れました。 なにやら、「そうするもの」だそうです。 来館者

チューリップと団華紋鏡

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今年は例年より早い見頃となっています、フラワーセンターのチューリップ。 今、真っ盛りです。 4月14日(土)・15日(日)は天候が悪いようで、土曜日の午前中が見頃になりそうです。 きれいに咲き誇るチューリップを見ていると、ある鏡を思い出しました。 現在展示中の隋~唐(6~7世紀)の団華紋鏡(だんかもん きょう)です。 団華紋鏡(図録188) 「団華紋」とは、いろんなおめでたい花を複合し、円形にデザインされた紋様のことです。 その一部の団華紋を見ると、チューリップに似ていませんか? 団華紋鏡の内区の一部 フラワーセンターのチューリップ(4月12日撮影) 団華紋鏡のデザインには、これまでの中国にはない、西域からの影響が色濃く認められます。シルクロードからやってきた人と文化は、民族的な閉鎖性を越え、中国に新しい開放的で華麗な文化を作り出しました。 一方、チューリップの原産地はトルコ周辺 だそうで、有名なオランダへは16世紀になってから伝えられました 。チューリップの語源も、ターバン( チュルバン、tülbend ) からきているとの話もあるとか ( wikipedia情報)。 そう考えると、この団華紋のデザインにチューリップも影響を与えている可能性もあるかも。 今後も、注視していきたいと思います。